ジャグリングパフォーマンスにおける著作権について

(日本ジャグリング協会)

日本ジャグリング協会は、2003年度の理事会における議決事項としてJJFビデオの販売を見合わせることにしました。ゲストステージもチャンピオンシップも数台のカメラによって撮影され、映像はジャグリング協会の財産として管理されています。ゲストステージのビデオは以前から販売されており、今回もそのつもりで検討していたのですが、数ヶ月に渡る議論の末にこのような結論に至りました。

販売の障害となったのは、パフォーマンスのバックに使われる音楽の著作権の問題でした。著作権使用料を全て支払い、それをビデオの値段に反映させるとすると1本あたりの値段があまりにも高くなると判断したためです。現在の協会の予算規模ではこれを補助することもままなりません。

では、過去に販売されていたゲストステージのビデオはどうだったか改めて調べてみますと、一部を除いて著作権料は支払われていませんでした。そこで、それらの販売も合わせて中止することを決定しました。

以下の文章は、協会監事の大石直弘さんが機関誌 "Shall We Juggle?" 17号用に書いた原稿に加筆修正したものです。協会と著作権法の関わりについてまとめられています。


ビデオ販売に関して

著作権はいわゆる知的財産権の一種で、著作権法によって定められています。ジャグリング協会のような公の団体がビデオを販売しようとすると、そこに使われている音楽に対する著作権料を支払わなければなりません。その音楽がパフォーマーのオリジナルであれば、本人に著作権料を払うなり無料での使用を認めてもらうなりすればよいため、それほど問題はありません。

市販のCDなどを使用した場合、普通は音楽著作権協会(JASRAC)を通して著作権料を支払うことになります。しかし中にはJASRACと契約していないアーチストも存在し、その人の曲を使用したときは個別に当たって許諾を受ける必要が生じます。とりわけ外国の音楽を使用した場合は厄介です。アーチスト側は許諾を断ることもできますし、使用料を一般的な相場より高く設定することもありえます。代理人を介しての交渉となった場合は、その代理人の費用も賄わなければなりません。これらを完璧にクリアするのはかなりの困難を伴います。仮にクリアしたとしても、それにかかった費用を全て受益者負担とすると、かなり高くつくことになります。

発表に伴う問題

パフォーマーが自分の演技を発表するときにも問題が生じます。著作権法では公衆に対して上演・演奏する権利について定めています(第22条)。ここで公衆というのはいわゆる発表会なども含まれますし、演奏には録音物を用いた再生演奏も含まれます。つまり自分がジャグリングのバックに使う音楽については、発表者が発表する前に著作権問題をクリアしておかなくてはいけないのです。

なお、使用曲目や使用する長さが予め分かっていれば、主催者が一括して申請することも可能です。JJFのゲストステージでは実行委員会がまとめてJASRACの許諾を受け、著作権料も払っています。

著作権法では別の条文(第38条 営利を目的としない上演等)で「無報酬」、「入場無料」の場合に限って許諾を得なくてもよいと定めています。JJFのチャンピオンシップやフリーパフォーマンスでは、この条文をよりどころとして、許諾申請は行なっていません。チャンピオンシップにしてもフリーパフォーマンスにしても、出演者はもちろんノーギャラなので「無報酬」に該当します。JJFでは参加費を取ってはいますが、これはパフォーマンスを見るための代金ではなく、2階席から見るだけならタダという立場ですので「入場無料」という理解で問題ありません。

しかし、これを読んでいる皆さんの中には、日頃のパフォーマンスでギャラを取れる方も多数いると思います。その場合は、たとえ大道芸であっても問題が生じることは知っておいた方がいいでしょう。

使用許諾を得るかどうかということとは別に、曲を使用する際にオリジナルのCDではなく複製物を使った場合は複製権の侵害になる可能性もあります(21条、30条1項)。具体的にはCD-R、MD、MP3などの使用がこれに該当します。

パフォーマーも著作権者

ここまでは主に音楽の著作物に関する話でしたが、実はパフォーマー自身にも権利があります。著作物と言ってもいわゆる「物」である必要はありません(無体物と言います)。ジャグラーが一連の演技を行なった場合、その演技そのものが著作物になります。その権利が発生するのも演技をした時点です。誰かに権利を申請する必要は全くありません。演技の巧拙も問題になりません。問題となるのは創作性だけです。よって、以後、あなたのオリジナルのパフォーマンスを他人が勝手に真似する(俗に言うパクる)ことはできなくなります。このため、協会がパフォーマンスのビデオを販売するときは全てのパフォーマーから許諾を受ける必要があります。またその場合でもパフォーマーが権利の全てを譲り渡すわけではなく、演技に対する著作権は依然としてそのパフォーマーの元に残ります。

広い意味での著作権には、他に著作人格権や著作隣接権などというのもあります。またこれらとは別に肖像権の問題もありますが、これを言い出すと話がややこしくなるのでここでは省きます。関係の書籍やウェブサイトをご覧になることをお勧めします。

関連リンク

日本音楽著作権協会(JASRAC)
http://www.jasrac.or.jp/
著作権情報センター
http://www.cric.or.jp/

最近の電子技術、情報技術の進歩には目を見張るものがあります。著作権というと昔は一部の人にしか関係のないものでしたが、最近はかなり身近になりました。それと同時に複雑にもなってきました。音楽や映像一般についてもそうですが、インターネット技術は大きな変化をもたらしました。法整備の方が社会の変化についていくのがやっとという感さえあります。著作権は、利用者の立場から考えるととても厄介な問題ではありますが、自分が創作する立場になることも念頭においてこれからは考えていく必要があると思います。